「爆弾魔の咆哮」
アメリカ、ロサンゼルス、某日午前11時50分
正午まで残り時間10分
爆弾処理班デイビット・ラーソンは解体した爆弾を机の上に広げ、雷管を取り外したプラスチック爆弾を手に取った。
レンガほどの大きさがあるそのプラスチック爆弾はのっぺりとした鈍い灰色の光沢を放っている。
「見てみろタケマ、こうなっちまえばこのプラスチック爆弾はもう粘土と同じだ。もうこの状態にまでしちまえばたとえ火の中に突っ込んでも爆発はしない、ただ固形燃料のように燃えるだけだ」
「油断するな、デイビット。奴の爆弾テクニックは間違いなく一級品だ。忘れたのか?先週も爆弾処理班が爆死したのを…。俺はこれだけでは終わらない気がするんだ、爆弾は他にもまだどこかにあるはずだ」
………
事件が起こったのは今から二週間前のこと、ロサンゼルス市警当てに爆破予告状が届いたことから始まる。
始めに送られた予告状にはこう書いてあった。
『サウスヒルストリート6788、正午丁度。神の咆哮を聴きたまえ』
市警はこれを爆破予告状として処理し、直ちに爆弾処理班に現地へと急行要請を行う。
住所に記載された場所へとたどり着くと、意外にも爆弾はすぐに発見された。
通常爆弾が発見された場合、液体窒素で起電力無効化温度にまで下げた後、安全な場所まで移動させ爆破するのが一般的である。
この時もその通常のマニュアル通り液体窒素での冷却法を行なうことになり、爆弾はすぐにでも無効化されると思われた。
だが爆弾は爆破。
処理班の二人の人間もその場で即死。
後日、爆弾の起爆装置に一定温度より冷やされると起爆するシステムが組み込まれていることが判明した。
その一週間後、再び同じように爆弾魔から予告状が市警に届く。
『先の警官二名は気の毒だった。今日の正午。サウスウッドブルーバード7328。再び神の咆哮を聴きたまえ』
この事件には警察のメンツがかかっている。
市警は直ちに爆弾処理犬と処理班二名を急行させ、再び仕掛けられていた爆弾を発見。
爆弾は再び比較的見つけやすいところに仕掛けられており、処理班からも
『爆弾の解体に成功した』
と連絡が入った。
だが、安堵したのもつかの間、爆弾は再び神の咆哮を発したのである。
警察犬、処理班の二名即死。
正確無比、予告通りの爆破を行なうスペシャリストの出現にロサンゼルスの町は恐怖に包まれた。
犯人は指定した場所、日時通りの爆破を行なうことで警察に挑戦状を叩きつけているつもりになっているようだった。
そして今日、ついに三度目の予告状が市警に届いたのである。
『シーサイドドライブ9672。今日の正午、神の咆哮は地上を揺るがすだろう』
今度はeメールでの爆破予告で、指定された爆破予告時間までにはわずか30分の余裕しかない。
記述されている住所まで爆弾処理班を向かわせるには時間が無い。住所付近を巡回している警察を探すとたまたま近くを巡回中だったデイビットとタケマが現場近くを通っており、すぐに彼らに現場へ向かうように市警から指示が出された。
今は刑事として活躍してるデイビットだが、爆弾処理班に所属した時期がある。
市警が彼らをそのまま現場に急行させたのもそのためだが、もう一つの理由としては爆破予告の住宅周辺にはガス管が埋設されており、引火すると辺りに大爆発を引き起こす、なのでそのままに放っておくというわけにはいかない。
市警はわずかな可能性にかけた。
運良く、デイビットは最近の連続爆破事件を気にかけ、もしもの時のため車のトランクに処理に必要な道具をそろえている。
「すぐに現場に向かうぞタケマ、あの辺りで爆発が起きれば大惨事になる」
現場は一般的な二階建ての白塗りの住宅で、中にいた老夫婦の二人は一時的に外に避難させた。
避難させる際、家の住人は
「以前注文していたプラズマテレビが昨日届いた。爆弾が仕掛けられているとしたらそこかもしれない。私達はほとんど一日中家の中にいるので他に爆弾が仕掛けられる場所は他にはないと思う」
とのことで、住人の証言どおりプラズマテレビを調べるてみると問題の爆弾はすぐに発見できた。
中にかなり大きなプラスチック爆弾が埋め込められ、なかなかにてこずったものの何とか爆弾を解体することが出来、分解された爆弾はわずかな基盤とプラスチック爆弾だけに分けられ無効化された。
解体後のプラズマテレビには他に変った様子は無く、他に爆弾が仕掛けられている様子は無い。
だが解体後もタケマは落ち着かない様子で部屋の中を見渡し
「おかしい、あの爆弾魔がそう簡単な簡単な場所に爆弾を仕掛けているわけはない。どこか他に…」
と言う。
爆弾を処理し終え、一呼吸入れているデイビットはタケマの言葉を聞いて。部屋を見渡した。
「この他に爆弾が仕掛けられる場所があるとすれば…」
部屋の中にはかなり大きな水槽があり、中にはグッピーとネオンテトラが何匹か泳いでいるのが見える。
他にこの部屋にあるのは冷蔵庫。
中には買いだめしたと思われる食料が大量に入っていた。
オレンジジュース、ピーナッツバター、ボンレスハム、サーモン…
他には大きめの室内灯。それも解体などはしていないがデイビットの考えではそれらに爆弾が仕掛けられているとはとても思えない。
「他には…」
室内には壁にかけてあったプラズマテレビの他に以前から置いてあったと思われるブラウン管式のテレビが置いてある。もう既に使われていないのだろうコンセントから抜かれ床の上に放置され、上の方には薄っすらと埃が広がっている。
「タケマ、爆弾っていうのは仕掛けようと思えばそれこそどこにでも仕掛けられるもんだ。だが言っていただろう。あの老夫婦はほとんど家にいて他におかしいところは無いって言っているだ。これ以上疑えばそれこそきりが無いぜ」
デイビットがそう言った時、隣の家から犬の鳴き声が聞こえてきた。
この辺り一帯が火の海になれば犬どころか多くの住民に被害が出ることだろう。
「そうか…お前は一応プロだからな…プロの言うことは正しいか。…だがな、俺は昔ある人に教えられた格言みたいなものがあってな。よく口うるさく言われたもんだ。先入観を捨てろってね。先入観は人の思考を殺す。先入観を捨てれば見えない世界が見えるときがある。その人はいつも俺にそう言っていたんだ」
「先入観を捨てろか…」
犬の鳴き声が更に大きくなった。どうも正午近くに吼えるのが癖になっているようだ。
その時、腕組みをし難しそうな表情をしていたタケマの表情が急に一変し、目を見開くとそのまま興奮した様子でデイビットに向かってこう言い放った。
「デイビット。わかったぞ!他にも爆弾がある!早くそれを解体しないと二人ともお陀仏だ!」
「なんだと!」
「爆弾が仕掛けられているのは…!」
正午まであと三分。
間違えば命は無い
確かに爆弾はもう一つ仕掛けられていた。
タケマとデイビットはそれを解体し、無事二人は爆弾魔の咆哮から逃れることが出来たのだ。
さて爆弾が仕掛けられていたのはどこだろうか?
「爆弾が仕掛けられているのは×××の中だ!」
この×××を本文中の文字のまま答えてくれ。
トップへ戻る
- kz Login ver1.2 -
http://m2t.jp/img/tweet_icon04.
Copyright(C)2003 TABINOMICHI
All Rights Reserved.