柳生秘帖~柳生十兵衛 風の抄~感想の話

色々と忙しいのでとりあえず最近読んだ本の感想を。
今回の感想は原作:古山寛 漫画:谷口ジロー【柳生秘帖~柳生十兵衛 風の抄~】
初めはTwitterに感想を上げたんですが、よくよく考えたら「こら完全なネタバレだわ」と思いましてブログに上げ直すことにしました。
以下完全なネタバレ込みの感想。
(まだ作品を読んでない人は読まない方がいいです)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
読んでいてそれなりには面白いのだが、全体的に見てなんとなく盛り上がりに欠けた印象を受けた。
鑑みるに、主人公側の柳生が常に優位であり、逆に相手が完全な劣勢であるというのが大きな問題点なのだと思われた。
言ってみれば主人公の柳生は体制側をバックにした立場の強い人間であり、敵役は反体制側の弱い立場なのである。
本来主人公は『劣勢の中、頑張る』というのが王道なのだが、この場合『優勢の中、頑張る』という話なのでどうにもあまり主人公側に共感が出来ない。

それでもまだ敵役が次々に奇策を打って
「こりゃ本当に幕府がヤバいことになるぞ……」
「主人公達が追い詰められた!絶体絶命だ!」
なんて展開があればいいのだが、敵がやったことと言えば
「上皇を逃がした」
「諸藩に謀反を促す手紙を送りつけた」

という地味な二つの行動しかしておらず、まったく奇策を用いないのである。
せめて誰かを人質にとるとか罠にかけるとか上手い手を使って欲しかった……。
(モブがいくら殺されてもそれは危機の演出にはならないのでやっぱりまずい)
[余談。体制側(といっても結構危うい立場なのだが)の柳生が主人公である【Y十M】では敵が有利な立場に立ち様々な秘策を用い、柳生側も苦戦するというハラハラした展開がなされる。非力な女達が柳生の特訓と助太刀により、人外の技を用いる凄腕の男達に立ち向かっていくというプロットも見事である]

また諸藩が反旗を翻すその予兆として、柳生は薩摩の示現流の使い手達などと立ち会ったりもするのだが、またこれが悪いことに柳生は大した苦戦もせずに圧勝しちゃうのである。
これでは危機を感じろって方が無理な話だ。
読んでいる読者からすれば
(´・ω・)「まあ謀反起きてもこの調子ならなんとかなるんじゃね?」
と感じてしまうだろう。
更に言えば、後水尾上皇の策略も既に中盤くらいでどん詰まってる感があるし、終盤も完全に勝負が決した状態で話が進んでしまっているのだ。
つまりは敵側もよろしくない。強大な敵を演出しきれてないのである。

そして話の最終盤、柳生は活人剣を編みだし宿敵と対決することになる。
のだが、これがまたなんと柳生は相打ちになってしまうのである。
( ゚Д゚)「活人剣編み出したのに……結局相打ちなの?」
と悪い意味であっけにとられてしまった。
正直柳生が敗れてしまったせいでテーマ性がぼやけてしまった……というかテーマは一体なんだったんだ?
という疑問の印象しか残らなかった。
その後、取り返した柳生秘帖が登場するのだが、
「ああそういえば、この話のそもそもの主題ってこの本だったな……」
とやっと思い出したくらいに影が薄かったのも残念であった。
(一応、その書の重要性は作中で明かされるのだがそれの説得力が弱い)
仮に柳生秘帖に【バジリスク甲賀忍法帳】の人別帳くらいの重要性があれば、男達が命を賭けて戦うというテーマにより一層の深みとドラマ性をもたらすことが出来ただろうに…。
(甲賀忍法帳のあの人別帳の重要性を思い返して欲しい!あのドラマチックさといったら!)

この相打ちの展開も【腕KAINA~駿河城御前試合】みたいに残酷時代劇!泥臭い男達の因縁!そしてそれがもたらす悲劇的な結末!のようなものがない(ように見える)のでやっぱりあっけにとられるだけである。
(柳生はいわば主命を帯びて仕事的に物事を処理してる風であるし、主体となる動機が弱い。復讐、誰かを守る、誰かを助ける等々……。(主命云々でも【シグルイ】ぐらいはっちゃけた絶対性と異常さがあればそれはそれで面白いのだが……)
その為にライバルとの対決に必然性や因縁が見いだせない。実際、柳生は相手方の夜叉麿に無益な戦いは止せ!となんども忠告しており、戦いを望んでいない。
 
 
 

では、一体主人公はなんの為に戦っているのか?
そう、柳生秘帖を取り戻す為である。
だが、柳生秘帖ってそんなに重要なものだったか?
幕府が転覆する可能性があるってのは理解出来るが、それは主人公自身の強い動機になってるのか?
【そう、主人公自身の確固たる強い動機が見えてこないのだ!】
主命では動機が弱い!弱すぎるのだ!
夜叉麿の剣を破りたい!誰々のかたきを取りたい!誰々を救いたい!
この単純で強い欲求が主人公に欲しかった!

 
 
 
以下蛇足になるが、最終的なオチもこの書によって日本は半世紀後に壊滅することになる……。
というまるでバッドエンドのような終わり方なのですっきりしない。
いや無論、バッドエンドでも全然構わないのだが、それなら先にも言ったような腕KAINAみたいな泥臭い因縁!そして侍の不器用な生き様!そして死に様!を見せつけてくれればいいのだが、それが弱いのである。
話の大筋から離れたオチなので唐突感も強い。最後の最後にぽっと古事記が登場し、それが遠因となって日本が壊滅……とか言われても面食らうだけである。
淡々と話が進んでいても面白い【雪の峠・剣の舞】のような駆け引き、因縁とその結末的な展開もないので、やっぱり残念な印象であった。
カタルシスを演出するのならば柳生は中盤の勝負で負けるべきであったようにも思う。
 
 
なんか他の作品を引き合いに出してくそみそに貶してしまった感もぬぐえないが、描き込まれた絵は素晴らしいし、あともう少しこれらの問題が解決していればきっと快作になったであろうに……という言いようのない悔しさの為にこのような駄文を書き連ねてしまった。
気分を害された方がおられたとしたら何卒ご容赦頂きたい。

ちなみに谷口ジロー氏の【孤独のグルメ】や【神々の山嶺】は人生至上の中において大傑作の一つだと思っている。
別にバランス取ったわけではない。本当にそう思っているのである。
是非ともご一読頂きたい。
ではまた。


柳生秘帖~柳生十兵衛 風の抄~ 


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